2014年3月13日木曜日

深夜特急

 昨年10月の末に、アマゾンで電子書籍が安くなっていたので、10冊ばかり電子書籍を購入した中に、「深夜特急1―香港・マカオ―」が含まれていた。「三国志」や「孫子」やいろいろ読んでいるうちに年が明けて、「深夜特急1」に取り掛かったのは年が明けて随分たってからだったと思う。

 何気なく読み始めたら、なかなか面白く、一巻読み終る度に、続きを購入してしまい全6巻すべてを揃えてしまった。全てKindle版の電子書籍である。1巻から6巻まで一気に読破し、また1巻に戻って読み始めている。電子書籍は、深夜でも電車の中でも読み終えた本の続きを買うことができるから、つい次から次へと買ってしまう。Kindleの書籍は iPhone でも Nexus 7 でも読むことができるので、非常に便利である。いろいろな端末をまたいで、どれでも読みかけの本の続きが読めるのは、なかなか気持のよいものだ。

 第1巻を180円で購入し、2巻以降は確か400円程度の価格だった。どうせ買うのなら安いうちに全巻購入しておくべきだったのだけれども、深く考えずに1巻だけ購入しておいたのである。読んでみなければ、全巻そろえる価値がある作品かどうか判らないことも、1巻だけ購入した理由のひとつだ。
 そもそも、2巻目以降も180円で購入できたものかどうか、今となっては記憶が曖昧である。が、この時期にまとめて何冊も電子書籍を購入したので、多分2巻目以降も安価に購入できたのではないかと今頃思っている。

 まあ、アマゾンは商売が上手だということだろう。

 さて、この作品。

 大変すばらしく、面白い作品である。今は亡き開高健のベトナム物や釣を題材にした紀行文にせまる面白さがある。

 作者の沢木耕太郎は一応文筆家として生計を立てていたのを、その仕事を捨てて放浪の旅に出たということらしく、香港からロンドンにまで到る旅の描写はなかなか堂に入ったものである。
 文章は流麗でスラスラと頭に入ってくる。開高のような韜晦したような独特の文体ではないものの、平易で理解しやすい文章で、旅人や現地の人達との交流や作者自身の心の動きを的確に描写して、読者を知らず知らずのうちに旅に惹きこんでしまうような魅力を持っている。

 勿論、この紀行文の面白さは、文章がうまいからというだけではなく、作者の奇想天外な行動から生まれる旅先での経験から生み出されるものであることは言うまでもないだろう。

 省みれば、若かった頃の私には自分の人生を賭けてこうした旅に出るような度胸はなかった。ましてや家庭を支える立場になった今となっては、風に吹かれるようにあちらこちら旅して回るようなことは夢のまた夢である。
 精々が、数年に一度ちょっとした海外旅行に出掛けるくらいが関の山と言うものだ。

 そんな私でも、この本を読むと、海外を放浪したような気分になることができる。

 それが、こうした紀行文の価値なのだろう。

 全てを捨てて旅に出たくなってしまう可能性はあるが、そうならない自制心を持った方にはお薦めできる作品である。紀行文の傑作と言って差支えあるまい。

0 件のコメント:

コメントを投稿